ニューシニアの情報新聞「フォロンティアエイジ」2月プレミアム号
フロンティアエイジ
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2008年4月プレミアム号第4−5面 プレミアム号index
 
千年の「源氏」を歩く
石山そして京都・宇治
 今年は「源氏物語千年紀」。11月1日が『源氏物語』の存在が確認されてからまる千年にあたり、いま各地でさまざまな催しが繰り広げられている。この機会に思い立って、京都、宇治、大津市石山寺などのゆかりの地を訪ねた。作者の紫式部、登場人物のモデル、物語の舞台などに関係する場所である。千年も前の物語の世界が、少し身近になった気がした。 (高&養)
 
 
 
宇治MAP 紫式部の像 京都MAP
 
紫式部の墓
▽六道珍皇寺=東山区大和大路四条下ル(清水道バス停5分)
▽河原院址(京阪・五条駅5分)▽夕顔の墓=河原町松原(烏丸松原バス停数分)
▽一条戻り橋(一条戻り橋バス停すぐ)
▽紫式部の墓=堀川北大路下ル西側(北大路堀川バス停5分)
▽雲林院=北区紫野雲林院町(大徳寺前バス停3分)
▽大雲寺=左京区岩倉実相院北(岩倉実相院バス停5分)
▽廬山寺=上京区寺町通広小路(府立医大病院前バス停5分)▽清凉寺=右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町(嵯峨釈迦堂前バス停)
夢回廊に美が集う 石山  
  紫式部が源氏物語の構想を練ったとされる石山寺では、「千年紀」のメーン行事「源氏夢回廊」が開かれており、にぎわいは12月14日まで続く。

 東大門からの石畳の参道は、黒塗りの柱列にかけられた布が風に揺らいで帳(とばり)を思わせ、和歌が記された側壁は蔀(しとみ)に似て、早々に源氏の世界の気分。
田辺聖子文学館のタペストリー

 最初の展示会場、世尊院では日本刺繍で源氏物語の世界を表現した掛け軸約25点が見事。各帖の場面が絵はもちろん和歌の字まで刺繍で綴られ、御簾を透して見える廊下の表現などに日本刺繍の伝統技法を駆使。50人の作家がそれぞれ2年をかけて1点ずつ制作したという。(4月19日から平安王朝の色の世界「吉岡幸雄衣裳展」に替わり、次回の刺繍展は5月16日〜30日など展示替えあり)

 「田辺聖子源氏物語文学館」は、田辺源氏の挿絵として岡田嘉夫が描いた各場面の大きなタペストリーが見もの。未来千年館には7月に式部ロボットがお目見えする。

 「回廊」以外にも広い境内いたるところで源氏ゆかりの展示。豊浄殿(宝物殿)には過去に描かれた屏風や本が並び、千年を経て人々を魅了し続ける源氏物語のすごさを改めて実感。本堂正面右手の間には、筆を走らせる姿の紫式部人形があり、手を合わせる人も多い。

 「花の寺」の別名があり、さまざまな花が散策の足をとめる。梅、水仙、桜が終わり、ツツジや菖蒲、ボタンが出番を待つ。歩き疲れて大門近くのカフェ・ド・ゲンジへ。回遊式庭園を眺めながら名菓・石山源氏と抹茶のセットで一息。源氏世界に浸り切りの一日だった。

 ◆源氏夢回廊入場料=600円、千年紀セット券(石山寺入山料・豊浄殿・源氏夢回廊)=1000円▽JR石山で京阪に乗り換え石山寺駅から徒歩10分▽「源氏夢回廊」事務局TEL077・537・1105。
 
社寺に辻にゆかり深く ヒロインの名の町さえ 京都
 
   「源氏物語」全54帖はフィクションだが、実在した邸宅や社寺、山川や森などが登場する。京都に住む作家・杉田博明さん(72)は「紫式部の一族をはじめ、光源氏のモデルとされる源融(みなもとのとおる)ら登場人物ゆかりの場所が多く使われている」という。

 杉田さんの著「源氏物語を歩く」(1973年刊=絶版)は「歩いて学ぶ源氏物語」の古典。「式部は自らが訪ねた場所を舞台に選んでおり、今もその跡をしのぶことはできる」という杉田さんに、京都の代表的な舞台をあげてもらって出かけた。
六道珍皇寺と一条戻り橋

 スタートは東山区の六道珍皇寺。『源氏物語』の冒頭「桐壺」の帖(巻)で「すぐれて、時めき給ふありけり」と紹介される源氏の母が火葬された場所。源氏3歳の時だ。「愛宕(おたぎ)といふ所」と示される一帯は当時、火葬場だった。寺内には平安初期の文人・小野篁が、あの世と行き来したと伝わる井戸もある。

 物語はその後、父の桐壺帝が妃に迎えた亡母に似る藤壺を源氏が慕い、不義の子が生まれるなど複雑、華麗に展開する。

 次に訪れたのは源融の邸宅河原院址。「玉鬘」「胡蝶」の帖などに登場する「六条院」の想定地だ。五条大橋の西の脇を流れる高瀬川沿いにエノキの巨木があり、その下に石柱が立つ。

 融は嵯峨天皇の皇子だが、母の身分が低く源氏の姓を賜って臣籍降下。百人一首「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆえに乱れ染めにし我ならなくに」の作者である。後に兄の仁明天皇の養子となって左大臣に就き、即位の機会もあったが、藤原氏との政争に敗れ74歳で没。式部より1世紀前の人物だが、杉田さんは「源融ゆかりの場所は物語の随所に登場する。源氏のモデルとみて間違いない」という。

 フィクションなのに、登場人物の墓があるのも『源氏物語』ならでは。その代表は河原院址から歩いて10分ほど、堺町通高辻下ル夕顔町の民家の軒下にある夕顔の墓。源氏が六条御息所に通う道で垣根に咲く花が縁で深い仲となり、六条御息所の生霊にとり憑かれて亡くなる女性「夕顔」の帖のヒロイン。町の名に残る薄幸の女性の墓標は「夕顔之墳」と刻まれていた。

 堀川通りに出て市バスで北上。国際ホテルの北に、源氏の二条院に想定された陽成天皇の譲位後の住まい陽成院があったが、昔をしのばせるものはないと聞き、そのまま一条戻り橋に向かった。

 堀川も道路拡幅のため覆われる所が増えたが、一条戻り橋付近は大きな樹木が残り、かつての面影を残す。「葵」の帖で、源氏が参加する行列の見物場所を求め、葵の上と六条御息所が車争いしたのはこの付近という。敗れた六条御息所の生霊は葵の上にもとり憑く。渡辺綱が鬼に出会ったり、安倍清明が式神を住まわしたり、この橋には奇妙な話が伝わる。
清涼寺と源融の墓

 紫式部の家が、今の上京区の廬山寺にあったことは比較的知られているが、紫式部の墓が北区紫野西御所田町にあることに思い当たる人は多くないだろう。『源氏物語』の室町時代の注釈書『河海抄』は「墓所は雲林院白毫院の南にあり、小野篁の墓の西なり」と記す。

 悩みを抱えた源氏が参拝したと記される雲林院はもともと平安初期の淳和天皇の離宮。大きな寺領を持っていたが今は小さな観音堂があるだけ。式部の墓は旧寺領の東端に、小野篁の墓と夫婦墓のように並んであった。

 地下鉄北大路駅から国際会館駅へ。左京区岩倉の実相院の北にある大雲寺を目指す。「若紫」の帖で源氏が、おかっぱ頭の美少女と出会う「北山のなにがし寺」だ。杉田さんは初めてこの寺を訪れた時「(式部の)描写とあまりに符合することに目を疑った」という。その後の40年で景観は大きく変わったが、式部も目にしただろう閼伽井と滝の水は今も清らかだった。

 叡山電車の岩倉駅から市街地に戻り、出町柳駅から賀茂大橋を渡り廬山寺へ。式部の曽祖父、堤中納言兼輔の邸宅跡と、平安京研究の角田文衛氏が40年ほど前に断定した。

 最後に嵯峨の清凉寺に向かう。源氏が須磨に流された後、都に戻って建立した寺のモデルで「松風」の帖に「大覚寺の南あたり」と記される。ここも源融の山荘跡。多宝塔裏に融の墓があった。

 杉田さんに教わった「源氏の旅」。これからのお出かけの季節におすすめの旅でもあった。
 
 
10帖巡って3時間 川の両岸に古跡
 
   宇治十帖(うじ・じゅうじょう)の「古跡」を訪ねて宇治に出かけた。JR宇治駅前の観光案内所で、ボランティアの中年女性から「迷わないと思いますけど」と「宇治イラスト・マップ」をもらった。宇治市観光協会発行の多色刷り。とても見やすく、10カ所の古跡も記載されていた。
世界遺産宇治上神社

 「宇治十帖」とは『源氏物語』全54帖(巻)のうち、第45帖「橋姫」から結びの「夢の浮橋」まで。源氏の子の薫と孫の匂宮に三姉妹がからむ悲恋の物語。中心となる舞台が宇治なのでこの名がある。

 もちろん宇治十帖もフィクションだが、いつのころにか「古跡」がつくられて今に伝わる。宇治川をはさんで右岸に7カ所、左岸に3カ所ある。最短距離を選び「10夢の浮橋」(数字は宇治十帖の順)、「6東屋」「2椎本」「9手習」、「7浮舟」「8蜻蛉(かげろう)」「3総角(あげまき)」「4早蕨(さわらび)」「5宿木」「1橋姫」の順に歩く。

 まず向かったのは宇治橋西詰め。若いが枝振りのいい黒松の下で、巻物を読む十二単姿の石像は、2003年に建立された「紫式部像」。前に「夢之浮橋古蹟」と刻まれた古びた石碑が立つ。周辺は小さな公園になっていて、一角に宇治市文化財愛護協会が設置した説明板があった。「源氏物語 宇治十帖(十)夢の浮橋」の見出しの後に、同帖の要約が記されている。

 その後、訪ねた「古跡」それぞれに、各帖をダイジェストした説明板があった。「橋姫」から順に歩けば、宇治十帖のストーリーが追えるわけだが、今回のように順番を無視しても、全部を回れば話の筋道は理解できる。

三室戸寺
  「夢の浮橋」から京阪宇治駅前の「東屋」、そのすぐ北の「椎本」と訪ねるうち、これらの「古跡」が、元来あった何らかの歴史遺産から選ばれていると気づいた。たとえば「東屋」は鎌倉時代の石造聖観音、「椎本」は式内社の彼方神社、「蜻蛉」は平安時代の線刻阿弥陀三尊仏、「橋姫」は水の神の橋姫神社と住吉神社。中にはなぜ当てはめられたか分からない場所もあったが、それを考えながら歩くのも楽しく、7キロほどの距離は苦にならなかった。

 途中には「古跡」のほか、世界遺産の宇治上神社、奇祭のある県(あがた)神社、平家物語に登場する義経軍の宇治川先陣争いの故地に立つ石碑、宇治大橋の建造を祈願した十三重石塔、光源氏のモデル源融の山荘が元になった平等院など心惹かれるものも多い。

 途中で「源氏物語ミュージアム」に入館し、映画「浮舟」(約20分)を観賞したことなどもあり、3時間かけて回り終えた時には、すっかり宇治十帖通になれた気分だった。

 〈注〉「浮舟」の古跡がある三室戸寺は入山料500円▼源氏物語ミュージアム(TEL0774・39・9300)は入館料500円、月曜休館▼宇治市観光協会(TEL0774・23・3334)。
 
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