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| 旅−歴史を歩けば |
奈良市上高畑界隈 |
| 「芸術村」の遺産守ろう |
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大正から昭和のはじめ、古都を見守るように連なる奈良三山(若草山、春日山、高円山)に近い奈良市高畑町の上高畑に作家の志賀直哉(1883〜1971)、洋画家の足立源一郎(1889〜1973)らが住んで「芸術村」や「高畑サロン」が生まれた。天平美の新薬師寺があり、奈良公園に隣接して春日大社にも近い。
今は旧足立邸にあるティーガーデン「たかばたけ茶論」で散策の人たちが憩う。文化の薫りを残す町で、直哉や足立の旧居を中心とした「近代文化の遺産」の環境を守る学識者らの活動が始まっていた。
(金澤 清弘) |
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緑が輝く日、「茶論」にオーナーで洋画家の中村一雄さん(73)を訪ねた。奈良公園の「ささやきの小径」を抜けると土塀に挟まれた路地に出る。土塀をくり抜いた入り口は見落としそうに狭い。
樹齢100年を超える3本のヒマラヤスギが枝を張る庭に七つの白いテーブルとイスが並び、庭木の向こうに自宅がのぞく。1階にアトリエがある赤い瓦屋根の2階建て。1919(大正8)年に足立自身が南仏・プロバンスの民家をモデルに設計して建築。9年後、転居に伴い親交のあった中村さんの父で洋画家の義夫さんが譲り受けた。玄関にステンドグラス、家具も洋風が多い。
中村さんはこの家で生まれ育った。戦争中は県の命令で屋根を黒く塗り、戦後は米軍に接収されてアトリエを中央で仕切られたが自費で復元。81年に「恵まれた環境をコーヒーの香りとともに味わってもらいたい」と考え「茶論」にした。「大勢の人と感動的な出会いができた。一期一会を大事にしたい」と話し、画家三代の自宅も出来るだけ公開していくという。
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東隣には志賀直哉の旧居。木造2階と平屋の2棟を渡り廊下でつないだ数寄屋風。1929(昭和4)年に直哉が自ら設計し、京都の宮大工に建築を頼んだ。直哉は9年間住み、長編代表作「暗夜行路」の後半を書き上げるなど、数々の作品を残した。2階の8畳の書斎で大きな窓から眺める三山の風景を好み、随筆「奈良」に「今の奈良は昔の都の一部分に過ぎないが、名画の残欠が美しいやうに美しい」と綴った。
平屋は東側が家族の部屋、西側は天窓とガラス戸のサンルームとそれより少し広い食堂兼娯楽室。集まったのは作家の武者小路実篤、小林多喜二、尾崎一雄、日本画の堂本印象、洋画の梅原龍三郎、若山為三や彫刻家、写真家、東大寺の僧ら。県内外の文化人が志賀の家を中心に行き交って芸術や人生を論じ、麻雀や囲碁などを楽しんで「高畑サロン」と呼ばれた。
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1975(昭和50)年夏、直哉旧居に危機が訪れた。22年前から厚生年金の宿泊施設になっていた旧居の建て替え計画を県が認めたのだ。中村さんは近所の人たちと保存運動を展開。市民運動に発展して3年後、奈良文化女子短期大学のセミナーハウスとして残され、一部の公開が始まった。00(平成12)年には旧居と中村邸が国の登録有形文化財になった。
そして去年、文化財の継承を願う「白樺サロンの会」(代表=呉谷充利相愛大学教授)が発足。中村邸でセミナーを開き「近代文化の中での重要性」を訴えた。呼びかけ人のひとりの中村さんは「文化財になっても保存は心もとない。近代文化発祥の地を皆で守っていきたい」。
鎌倉時代以降の一帯は春日大社の神職が多く住む「社家町」。志賀直哉旧居も中村邸も元は神職の屋敷で、間の路地は「禰宜道」と呼ばれる春日大社への通勤道だった。
「町には守りたい建物が多い」と中村さんは柳生街道へ通じる「坂道の住宅地」を案内してくれた。春日大社の宮司屋敷など土色や白の土塀が多い家並に点在する洋風の建物が目を引く。「若山為三が住んだ家、隣はウィリアム・ヴォーリズが設計した画家の旧居。こちらには直哉に奈良居住を薦めた作曲家がいた」。今は新しい人たちが住むが、元は「高畑サロン」メンバーの家だった。
新薬師寺からは「歴史の道」が白毫寺へ続く。途中の急な坂道や趣のある参道の石段は直哉が好んだ散歩道のひとつだが、中村さんは「この辺も様子が変わった。描く気がそがれる」と嘆いた。 |
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<メモ> |
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◆新薬師寺
747(天平19)年に光明皇后が聖武天皇の病気平癒を祈願して建立。落雷で焼けたが本堂だけ残った。伐折羅(ばさら)など十二神将の立像が木造薬師如来坐像(いずれも国宝)を囲む。萩の寺でも知られる。
◆白毫寺
高円山の山麓にあり草創は不明だが天智天皇の第7皇子・志貴皇子(?〜716)の山荘を寺にしたなどと伝わる=写真。赤・白・紅白しぼりなどが一株に咲く「五色椿」と萩で有名。
◆歴史の道
新薬師寺と白毫寺町には春日大社ゆかりの宅春日(やけかすが)神社がある。
◆ささやきの小径
春日大社の二の鳥居から志賀直哉旧居まで約500メートル。両側に馬酔木(あせび)の古木が密生する。鳥のさえずりに魅せられ直哉が名づけた。 |
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