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演芸めいげんINDEX  
   
 
下手で短うて値が高い
 
 
  上田 文世
 
   「浪花節」「浪曲」と言っても、「それ何?」と答える人が多いのではなかろうか。私(1942年生まれ)は、紀ノ川筋の農村で子ども時代を過ごした。その頃はまだ浪曲が全盛期の面影を残していた。大きな家の座敷に浪曲師がやってきて、何やらうなっているのを見聞きしている。

 やがて始まった民放ラジオの人気番組に「浪曲天狗道場」があった。のどに自慢の素人が浪曲師の前で、『壺阪霊験記』や『天保水滸伝』などのさわりを口演し、競うのである。時には師範代が模範演技を聞かせる。それを聞いて私もいくつかの演目の出だし部分を覚えた。その文句は今でも口をついて出てくるほどだ。後になって本などで調べると、48年(昭和23年)の芸能人所得上位10人のうち5人が浪曲師で、その頃の浪曲人気の高さがうかがえる。

 浪曲寄席は今も大阪市内で月1回、3日間開かれていて、実際の舞台を楽しむことが出来る。当時と同じく日吉川秋水のお得意ネタ『藪井玄以(やぶい・げんい)』は、人気の演目だ。玄以は粗末な身なりで街を歩き、もみ療治をして廻る。その売り文句が「下手で短うて値が高い」なのである。ところがどうして。「医学の博士、藪井玄以がやる仕事、どこに愚かがあるものか」というほどの名医。水戸黄門や暴れん坊将軍のような派手な立ち回りこそないが、悪徳商人からは多額の治療代を絞り取り、彼と結託する奉行をこらしめる。病気でうち捨てられた遊女を助け、抱え主をぎゃふんと言わせるなど、大活躍するのである。

 黄門や将軍のように、最後は権威に物言わすのではなく、自らの持つ医療の技術だけが頼り、「御用はないかと、ヒョコヒョコと・・・」と流して歩く軽妙な秋水節に、聞いていて思わず拍手をし、飄々と正義を実現する姿に、溜飲を下げるのである。

 今こそこの人に活躍してほしいと切に思うのだが、殺伐とした事件があまりに多すぎて「ヒョコヒョコと」では間に合いそうもありませんなあ。 (演芸ライター
     
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