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とかく金のある方へ傾く
  上田 文世
 
   お忍びで市中見回りに出た大阪西町奉行の佐々木信濃守が、利発な子どもと出会う。桶屋さんの倅(せがれ)四郎吉と分かり、奉行所に呼び出す。いろいろと問答を試みると、四郎吉は鮮やかに切り返す。

 大勢の与力・同心が居並ぶ中、「与力の身分は?」と問われた四郎吉、ふところからダルマのおもちゃ・起き上がり小法師を取り出して転がす。小法師はピーンと立つ。「あの通り身分の軽いもんですが、お上の威光があるんで、ピンシャンとそっくり返ってます」。ウーンと唸る奉行。続けて「与力の心意気は?」と問われ、四郎吉は小法師に天保銭を結びつけて放る。今度はダルマは寝たきり。「とかく、金のある方へ傾くわ」。上方落語『佐々木裁き』の一節だ。

 「役人の子はにぎにぎをよく覚え」は有名な江戸時代の川柳。「にぎにぎ」は、お金を握ること、賄賂、まいない、袖の下のことだ。この噺は明治20年代に出来た。当時も賄賂で動く役人が多くいたからか、お客さんに大変喜ばれたという。

 そしてこの噺は、今も人気演目の一つだ。大阪府立上方演芸資料館のワッハホール口演ネタ番付でも上位を占める。さもありなん。談合事件を端緒に福島、和歌山、宮崎の知事が相次いで辞職に追い込まれ、知事や幹部職員が捕まった。大阪府豊能町などでも同じように摘発された。職場をあげて、税金を自分たちの隠し口座に移す例も頻発。上が上なら下っ端もやります。役所には出ず給料だけをもらって暮らす輩も多数いた。すべてがそうではなかろうが、その腐敗、士気の低下ぶりは目を覆いたくなるほどだ。

 落語では、四郎吉は立派な与力、検察官になる。「手配りが見事。水も漏らさぬと言われた。それもそのはず、元は桶屋の倅でした」のオチ(サゲ)が付く。

 腐敗は取り締まりだけでは解決しないだろうが、四郎吉のような人材が多く出て、監視の目を強めることも必要だ。 (演芸ライター)
     
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