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方便の嘘はつきなはれ
  上田 文世
 
   通勤客で混雑する電車に乗り合わせた。背中越しに乗客の会話が聞こえてくる。一人は子育て中のOL、もう一人はこれからママになる後輩OLらしい。話題は産院の話から子どものことに移った。

 「年賀状なんかでよく、子どもの写真が送られてくるよね」と先輩。「ある、ある。でも可愛いと思えないのもあるね」「そうよね。それに実際に子どもと会って、可愛かったら可愛いって言いやすいんだけど、何て言ったらいいのか、言葉に困る時もあるわ」「私はそんな時は『元気な子やなあ』って言う」「そうね。でもやっぱり、自分の子が一番かわいいと思うものよね」

 上方落語『子ほめ』は「灘の酒」を「タダの酒」と聞き違えた男が「タダなら一杯飲ませろ」と言って家に飛び込んできて噺が始まる。口は悪いわ厚かましいわのこの男に、家の主は「酒の一杯もよばれようと思うたら方便の嘘、べんちゃらの一つもつきなはれ」と諭し、その方法を色々と教える。

 男は早速、大人を相手に実行するが失敗。そこで子どもをほめたら親が飲ませてくれるだろうと、産まれたばかりの赤ちゃんをほめにかかる。しかし、これまたうまくいかず、無茶苦茶ばかり言って親を困惑させてしまう。

 「自分の子どもは絶対可愛い」と思う親心をうまく突いたこの男の狙いは正しいが、何しろ、産まれてくる子の数が減ってきているのが日本の現況だ。厚生労働省の統計によると、1970年代前半には、出生数は約200万人だったのが、近頃では110万人程度になっている。おべんちゃらを言う機会も、これでは減るというわけだ。

 逆に高齢化は進み、大阪では65歳以上の人口は15年間で61万人増え、2020年には224万人になる。お年寄りを相手に害のない「方便の嘘」を磨く方が得策と言える。「方便の嘘」と言っても「何とか還元水」の松岡農水相みたいな「強弁の嘘」は「勘弁すい」がたいですがね。  (演芸ライター)
     
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