ニューシニアの情報新聞「フロンティアエイジ」
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取ったらもぎ取り
  上田 文世
 
   「294億円」「284億円」。新聞紙面に大きく出ていた数字だ。前者は損害保険業界、後者は生命保険業界の保険金や一時金、利息などの不払い金額である。この数字はもっと増えるとも言われている。同じような金額を紙面で探すと「300億円」があった。能登半島地震の復興支援基金だ。地震で痛めつけられた家庭や地場産業が、これで救われるのだ。

 上方落語に『軽業』という噺がある。旅の二人が、氏神さんの前を通りかかる。ちょうど祭礼があって境内は大賑わい。参道脇に並ぶ見せ物小屋から「評判じゃい、評判じゃい。1間(いっけん=6尺で約180センチ)の大イタチ、近寄ったら危ない」の呼び声。料金は「おひとり前が8文じゃ」と言うので二人が中に入って見ると、板が1枚置いてあるだけだ。

 「なんでやい」と叫ぶと「板は6尺、1間ある。板に付いてる赤いもんは血やから1間の大板血。近寄ったらこけてくるから危ない」という返答。「銭はどうなる?」と問うと「取ったらもぎ取り。代わろ、代わろ」と小屋を追い出されてしまう。ほかの小屋でも二人はだまされ通しの目にあう。

 保険業界の不払いは、この「もぎ取り」と同じか。熱心に勧誘するが、いざ支払う段になると不熱心である。約20年前、妻が3カ月余り入院したことがある。私の保険に妻の入院保障が付いているのを知らずにいたところ、1年ほど経ってたまたま来た勧誘員が「まだ請求できますよ」と教えてくれ、予期せぬ見舞金をいただいたことがある。あんな親切な「保険のおばさん」は、もういないのだろうか。

 「年金もらい損ね」も、社会保険庁に問い合わせた人がいたから分かった。旅の二人のように、あっちでだまされこっちで取られても「8文」程度の銭なら、旅の思い出ぐらいで済むだろう。保険のお金は万が一や将来を心配しての対策で、毎月の支出額は大きい。「取ったらもぎ取り」では納得できませんよ。  (演芸ライター)
     
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