ニューシニアの情報新聞「フロンティアエイジ」
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美しいものを美しいと思える 2008年3月号
  上田 文世
 
   木川かえるさん。3年前、81歳で亡くなった。おしゃべりしながら舞台で即興の絵を描いた。芸歴50年。派手なパフォーマンスは無かったが、気持ちが和やかになる芸だった。

 ひょろ長い体をスーツで包み、黒のベレー帽に黒の太縁眼鏡。バックに映画音楽やジャズが流れる。模造紙に描かれるその絵は、色っぽい着物美人だったり、赤トンボ舞う野原だったり、おかっぱ頭の少女だったりなど、今はもう見られない、日本の原風景や情緒だった。ヌード女性を描くのかなと思ったら、仕上がったのはカクテルグラスを前にした男女だったなどと、意外性でも楽しませてくれた。
演芸めいげん

 時々、絵の余白に文字を書き込んだ。赤いリボン、浴衣姿の女の子がしゃがんで、線香花火を楽しんでいる。そんな図柄に添えた文字は「美しいものをうつくしいと思える あなたの心がうつくしい」。この言葉を私は時々、自分の文章に使わせてもらった。「面白いものを面白いとおもえる あなたの心が面白い」と書いて・・・

 かえるさんは赤紙1枚で召集され、兵隊となって中国大陸を転戦している。ある時、機銃掃射と爆撃を受けた。友の大多数は戦死、かえるさんも爆風で吹っ飛ばされたが、ケガだけで済んだ。戦争終結後も約1年間、中国で過ごした。かえるさんは絵を教え、町の人と仲良くなった。今まで敵だった人から親切にされ、互いに笑顔を交わした。「「平和」、何とあたたかで、まろやかな言葉であろうか」と著書に記している。

 「美しいニッポン」「戦後レジームからの脱却」等を唱えて首相となり、1年で突然辞めた人の手記が「わが辞任の真相」と題し、雑誌の2月特別号に出ていた。在任中も彼は「美しいニッポン」の具体像を示さなかったが、手記でもこの点について全く触れていなかった。彼の「美しい」は、心に穏やかさを与えてくれるものだったのだろうか。

 3月4日は、かえるさんの命日だった。 (演芸ライター)
     
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