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邪魔くさいがな、ほっとこ 2012年2月号
  上田 文世
   5本指の靴下を愛用している。しかし、履くのはかなりめんどうだ。そのたびにこんな小咄(こばなし)を思い浮かべる。ムカデ(百足)が急ぎの使いを言いつかった。なのにまだ出かけない。見るとムカデは足の一つ一つにワラジを履かせていた。

  これとは別の小咄『不精猫』に出てくる父子だと、普通の靴下さえ履く気を起こさないだろう。

  枕を並べて寝ている父子。お灯明の火が風で揺れ、周りに移りそう。「お前、起きて消しにいかんかい」「ワイ、消すのん邪魔くさい」「ワイも邪魔くさいがな」「ほっとこか」「ほっとけほっとけ」。こんな会話を繰り返すうちに火事になり、二人は焼け死んでしまう。
演芸めいげん12年2月号

  父子は当然地獄堕ち。「来世は人間にはしてやれん」と閻魔はん。「望みの獣(けだもの)にはしてやる。言え」「そんなら真っ黒けの猫で、鼻の頭だけポチポチと白うしといとおくんなはれ」「ほう〜、なぜじゃ」「飯粒やと間違うて、ネズミが側へ来まっしゃろ」

  噺家さんにも不精モンがいた。六代目松鶴の弟子の笑福亭松枝さんが、著書『当世落語家事情』(弘文出版)で「不精三人男」として実名で記している。

  ここでは匿名で、まずA。彼は掃除・洗濯が邪魔くさい。楽屋で松枝さんが着替えを手伝う。肌着がズズ黒い。「へっへぇ。このシャツ、着たきりで今日で10日目」。なぜかうれしそうにAは言う。

  呑兵衛のBはアパート暮らし。小用で共同便所に立つのが邪魔くさい。空の一升瓶で用を足す。28本たまったところで家賃が払えず夜逃げした。

  Cは食事で外に出るのが邪魔くさい。カップ麺で済ます。それも「湯ゥ沸かして注いで、食べられるまで計6分。邪魔くさいさかい、水道の水入れて、6分経ったら柔らこうなってた。同じ6分。湯ゥ沸かす奴の気が知れまへん」。

  3人とも落語の才を惜しまれつつ世を去った。こんな不精話はいくら並べても、不精な読者は読まへんでしょうな。「邪魔くさいがな」ちゅうて。(演芸ライター)
 
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