| |
幾つもの峠を越え、渓谷沿いの細道をひた走る。「まだなの」−−横に座った妻に何度となくせっつかれ、奈良県吉野郡野迫川村の「野迫川温泉郷」に着いた時は、奈良市を後にして4時間がたっていた。途中には平家の武将、維盛終焉の地伝説もある山峡である。
この温泉を知ったのは以前、友人と伯母子岳(1344メートル)登山にでかけた時。役場でもらったガイドマップに「奥高野・野迫川温泉郷 ホテルのせ川」の名があった。奥高野とは霊地、高野山のさらに奥のことである。
 |
天然ラドンを豊富に含むという
(ハイ・タトラ提供) |
その時は遅く着いて早発ちしたせいで、温泉の記憶は薄いのだが、いつかゆっくり楽しみたいと思っていた。電話をすると、名称が「ホテル ハイ・タトラ」となり、運営も村から民間に移っていた。
「泉源で22・5度なら沸かし湯でしょう」と渋る妻を誘って出かけたのは2月下旬。五条市を経て野迫川村に入ると、山々は雪化粧をしていた。 名称は変わっても以前のまま、おしゃれな3階建てが熊野川の支流、川原樋川の川沿いにあった。点在する平屋の民家や廃校となった小学校に、ひと気は感じられなかった。
宿泊客はわれわれ夫婦だけ。川に向かって大きな透明ガラスがはまった浴槽で手足を伸ばす。雪景色の中に前には気づかなかった滝が見え、小さな滝壷は凍っていた。今はもう、対岸から伸びる木々の緑が濃さを増しつつあるだろう。
「秘境の湯は確かだけど、それにしても遠い」と、疲れぎみの妻も、「命洗料理」と名づけられた新鮮な献立の食事には満足げ。全国から食材を選んで品質にこだわり、料理法は健康に配慮して工夫され、作り手の自負が感じられた。
◆メモ 泉質=ラドン含有単純硫黄泉。効能はリウマチ性疾患、皮膚症、糖尿病、切り傷、婦人病 ▽料金=宿泊者無料。当日券600円(大人)。
▽あし=南海高野山駅から送迎バスあり。問合先H07473・8・0011 |